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AI時代の心理テストの作り方


――「それらしい診断」と「面白い診断」は違う

AIに「5択の心理テストを作ってください」と頼めば、今では数秒で心理テストらしいものが出てきます。

質問があり、選択肢があり、「あなたは〇〇タイプです」という結果もついてきます。文章もそれなりに滑らかです。

けれども、読んだ人が、

えっ、この質問から、どうしてそんなことまでわかるの?

と驚き、続けて説明を読んだときに、

なるほど。そういうことだったのか

と納得できる診断になるとは限りません。

AIを使った心理テスト制作で重要なのは、質問や診断文を書かせることだけではありません。

選んだ行動と診断結果の間に、どのような心理的なつながりを見つけるか。さらに、そこからどのような面白い飛躍をつくるか。

ここに、診断コンテンツ制作者の仕事があります。

※この記事で扱う「心理テスト」「診断コンテンツ」は、医療や臨床で使用する心理検査ではなく、一般の方が楽しみながら自己理解を深めるためのコンテンツを指します。

AIにいきなり作らせると、なぜ浅くなるのか

たとえば、次のような質問を考えたとします。

予定のない休日、あなたが自然にしていることはどれですか?

  • A まず部屋を片づける
  • B 気になっていた場所へ出かける
  • C 本や映画の世界に浸る
  • D 友人や家族に連絡する
  • E 予定を決めず、そのときの気分で過ごす

この質問をそのままAIに渡すと、次のような分類になりがちです。

  • Aを選んだ人は「きれい好き」
  • Bを選んだ人は「行動的」
  • Cを選んだ人は「インドア派」
  • Dを選んだ人は「社交的」
  • Eを選んだ人は「のんびり屋」

間違いではありません。しかし、行動を見たまま言い換えているだけです。

これでは、選んだ本人がすでに知っていることしか返ってきません。診断結果を読んだときの発見も、「当たっている」という感覚も弱くなります。

行動と結果の間に「心理的な意味」を置く

診断コンテンツでは、表面に現れた行動の奥に、その人が何を求めているのかを考えます。

先ほどの5択も、次のように捉え直すことができます。

選んだ行動その行動が満たしているもの
部屋を片づける外側を整えることで、内側の混乱も静めたい
新しい場所へ出かける新しい刺激によって、気分や視点を切り替えたい
本や映画に浸る別の世界に没入し、日常から心を解放したい
誰かに連絡する人とのつながりのなかで、気持ちを回復させたい
予定を決めずに過ごす管理されない余白を取り戻し、自分の感覚に戻りたい

こうして初めて、単なる休日の行動が「その人がどのように心を充電しているか」という診断になります。

AIに任せたいのは、この心理的な中間項を整理し、言葉にする作業です。

ただし、その中からどの意味を採用するかは、人間が判断しなければなりません。同じ行動にも、いくつもの心理的な理由が考えられるからです。

どの選択肢を選んでも、否定された気持ちにさせない

心理テストを作るときに注意したいのが、選択肢同士の価値の偏りです。

先ほどの例では、

  • 部屋を片づける人は立派
  • 外出する人は積極的
  • 予定を決めない人はだらしない

という印象を与えてしまう可能性があります。

これでは、正直に答えるよりも、「よく見える選択肢」を選ぶ人が増えてしまいます。

たとえばEを選んだ人を、単なる「のんびり屋」とするのではなく、

いつも時間や予定に合わせているからこそ、休日には誰にも管理されない余白を必要としている

と捉え直せば、この選択肢にも固有の価値が生まれます。

心理テストは、人を優劣に並べるためのものではありません。

どの選択肢を選んだ人にも、「自分にはこういう心の動きがあったのか」と発見してもらうことが大切です。

診断結果は「性格説明」だけで終わらせない

診断結果の基本的な流れは、次のようになります。

  1. あなたは〇〇タイプ
  2. どのような特徴があるか
  3. なぜその選択肢が、この結果につながるのか
  4. その人に合った提案
  5. 最後に、行動を後押しする一言

たとえば、Eの診断結果は次のように書けます。

あなたは「余白で充電するタイプ」。何もしないのではなく、予定や役割から離れ、自分本来の感覚を取り戻す時間を必要とする人です。そんなあなたにおすすめなのは、目的地を決めない散歩。気になる道を曲がったり、ふと見つけた店に入ったりすることで、管理されない時間が心をゆっくりほどいてくれます。次の休日は、何かを達成するためではなく、自分に戻るために歩いてみませんか。

この文章では、Eを選んだ人を否定していません。

本人の行動に意味を与え、その特徴に合った提案を行い、最後に小さな行動を促しています。

これによって診断結果が、単なる性格の説明から「自分を少し理解し、次の行動を選ぶための文章」になります。

ここまでAIに書かせても、まだ完成ではない

ここまでAIを使って診断結果を整えれば、文章としては十分に読めるものになります。

しかし、実際の診断コンテンツ制作では、これで完成ではありません。

制作者はここから、診断内容をもっと面白く、もっと意外なものへと変えていきます。

なぜなら、AIは基本的に、与えられた情報の関連性をたどり、論理的に説明しやすい結果を出そうとするからです。

部屋を片づける人なら「整理整頓が得意」。新しい場所へ出かける人なら「好奇心旺盛」。予定を決めない人なら「自由を大切にする」。

どれも筋は通っています。しかし、筋が通りすぎているため、結果を読む前から想像できてしまいます。

心理テストの面白さは、答えが当たり前に予想できることではありません。

この質問から、なぜそんなことまでわかるの?

という驚きがあり、その理由を読むと、

そう説明されると、確かに自分にはそういうところがある

と腑に落ちる。

この「意外性から納得へ移る瞬間」に、心理テストを読む楽しさがあります。

よい飛躍と、根拠のないこじつけは違う

AIに「もっと意外な結果にしてください」と指示することはできます。

しかし、そこで出てくるものは、ときとして単に奇妙なだけだったり、選択肢とのつながりが薄いものになったりします。

診断に必要なのは、でたらめな意外性ではありません。

結果だけを見ると意外なのに、説明を読むと納得できる。

これが、診断コンテンツにおける「よい飛躍」です。

たとえば「予定を決めずに過ごす」を、単に「のんびりした人」と見るのではなく、

あなたが無意識に守ろうとしているのは、自分で選べる自由です

というところまで進める。

さらに、自由を奪われそうになったときの反応、人間関係で距離を置きたくなる場面、商品やサービスを選ぶときの傾向へと広げていく。

こうした飛躍は、表面的な言葉遊びからは生まれません。人間の行動を長く観察し、一つの反応を別の場面へ置き換えて考える、制作者の経験が必要になります。

AIは論理の橋を架けることは得意です。

しかし、その橋をどこへ向ければ面白いのかを決めるのは、人間です。

AIに任せられること、人間が決めること

AIは、診断コンテンツ制作の優秀な共同制作者になります。

AIが得意なのは、次のような作業です。

  • バラバラなアイデアを分類する
  • 選択肢に共通する心理的な軸を探す
  • 選択肢の魅力度を揃える
  • 否定的な表現を、肯定的な言葉に置き換える
  • 行動と診断結果の間に理由を加える
  • 文字数や文章の調子を整える
  • 同じ内容の表現案を複数出す
  • 診断全体の矛盾や重複を探す

一方、人間が決めなければならないこともあります。

  • 誰のための診断なのか
  • 診断を通して何に気づいてほしいのか
  • どの商品やサービスにつなげるのか
  • どこまでを心理的な解釈として許容するのか
  • 読んだ人に、どのような感情を残したいのか
  • どこに意外性をつくるのか
  • その飛躍に納得できる理由があるか
  • その診断が、企業や発信者の姿勢に合っているか

AIにすべてを任せるのではなく、人間が企画の核と最終判断を持ち、AIに構造化と言語化を手伝わせる。

これが、AIを活用した診断コンテンツ制作の基本です。

AIに他人の心理テストを「パクらせる」ことはできるのか

これは、AIを使ったコンテンツ制作で避けて通れない問題です。

既存の心理テストをAIに入力し、

これと同じようなものを作って
文言だけ変えて
この構成を使って別テーマにして

と指示すれば、元のテストによく似たものが生成される可能性はあります。

文章だけが言い換えられていても、

  • 質問の順番
  • 選択肢の分け方
  • 選択肢と結果の対応
  • 結果名の発想
  • 意外な結びつけ方
  • 理由づけの展開
  • 固有の比喩や言い回し

まで重なっていれば、実質的には元の作品に強く依存したものになります。

心理テストは一つひとつの文章が短いため、「少し言い換えればわからない」と思われることがあります。

しかし、長年診断を作っている制作者には、自分がどこで迷い、なぜその選択肢を置き、どのような発想で結果を結びつけたのかという制作過程があります。

診断には、制作者の思考の癖が「指紋」のように残ります。

選択肢が一つ似ているだけなら偶然もあります。しかし、独特な選択肢の組み合わせ、結果との対応、説明の順序まで複数重なれば、作った本人が気づくことは少なくありません。

「似ている」と「著作権侵害」は同じではない

ここは、慎重に分けて考える必要があります。

著作権は、原則としてアイデアそのものではなく、創作的に表現された文章などを保護します。そのため、「5択で性格を診断する」「休日の過ごし方からタイプを分ける」といった一般的な発想まで、誰か一人が独占できるわけではありません。

一方で、具体的な設問、選択肢、診断文、特徴的な構成などが、既存の作品に依拠して類似していれば、著作権上の問題になる可能性があります。

AIを使った場合も、この考え方がなくなるわけではありません。

文化庁は、AI生成物についても、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」が認められる場合には、著作権侵害となり得るという考え方を示しています。

また、法律上の著作権侵害に当たるかどうかと、制作者として他人の発想や構造にただ乗りした「パクリ」であるかどうかは、完全に同じ問題ではありません。

法律上は保護されにくいアイデアの部分であっても、元作品を手元に置き、その構造や独特な対応関係を意図的になぞれば、職業倫理上の問題は残ります。

AIが文章を出したからといって、その責任までAIに移るわけではありません。

AIによる模倣を避けるための指示文

新しい心理テストを作るときは、AIに次のような指示を与えることができます。

以下の診断は、特定の既存作品を模倣せず、完全に新規の企画として設計してください。既存の心理テストの設問、選択肢、結果名称、選択肢と結果の対応、説明文、特徴的な構成を、引用・言い換え・順序変更によって再利用しないでください。

まず、今回の対象者、目的、利用場面から、独自の心理軸を3案提示してください。採用する心理軸を決めてから、質問、選択肢、結果をゼロから設計します。

一般的な性格分類を言い換えただけのものや、他の診断で頻繁に使われる対応は避けてください。既存作品との類似が疑われる要素がある場合は、その可能性を指摘してください。AIだけでは世の中のすべての作品との照合はできないため、「完全にオリジナルである」と保証しないでください。

既存の心理テストを、研究や品質分析のためにAIへ見せる場合には、さらに次の一文を加えます。

ここに示す既存作品は、よい点と改善点を分析するための資料であり、新しい診断のテンプレートではありません。固有の文言、選択肢、診断ロジック、結果の対応関係は、新しい企画へ転用しないでください。抽出してよいのは、「選択肢を対等にする」などの一般的な制作原則だけです。

ただし、この指示を入れれば絶対に類似がなくなる、というわけではありません。

AIは、世の中に存在するすべての心理テストを照合しているわけではないからです。最後は必ず、人間が検索と確認を行う必要があります。

オリジナルな診断を守るために、制作者がしておきたいこと

AIを使って診断コンテンツを制作する場合は、次のような記録を残しておくとよいでしょう。

  • AIに入力する前の、自分の企画メモを保存する
  • 心理軸を考えた日付と発想の過程を残す
  • AIに与えた指示文を保存する
  • AIの出力を、どのように修正したか記録する
  • 公開前に、特徴的な診断名や文章を検索する
  • 既存作品との類似が見つかった場合は、構造から作り直す
  • クライアント案件では、参考資料と制作物を明確に分ける

これは、他人の作品を模倣しないためだけではありません。

自分がどこを考え、どこをAIに補助させ、どこに独自の工夫を加えたのかを明確にする作業でもあります。

AIは、誰に対しても同じ答えを出すのか

AIの回答は、与えられた情報によって変わります。

「心理テストを作って」とだけ頼めば、一般的で無難なものになりやすいでしょう。

一方で、次のような情報を具体的に伝えると、出力は大きく変わります。

  • これまでに自分が作った診断コンテンツ
  • 想定している読者や利用者
  • 好みの文章の調子
  • 避けたい表現
  • 診断制作で大切にしている考え方
  • 過去にAIへ行った修正や指摘
  • 自社の商品やサービスの特徴

ここでいう「AIに自分のテイストを反映させる」とは、AIそのものを自分専用に再訓練するという意味ではありません。

自分が何を大切にし、どのような診断を作りたいのかを、AIが参照できる情報として具体的に渡していくということです。

ただし、AIが過去の文章を参照できるだけでは、よい診断はできません。

人間の側に一貫した診断観があって初めて、そのテイストがAIの回答にも現れます。

AIが作るのではなく、AIと一緒に考える

私はこれまで、企業や各種媒体の心理テスト、性格診断、商品相性診断など、さまざまな診断コンテンツを制作してきました。

AIが登場したことで、アイデアの整理、選択肢の比較、文章の調整は、以前よりずっと速くできるようになりました。

しかし、AIがあれば、誰でも同じ診断を作れるようになったわけではありません。

何を問い、どこに心理的な意味を見いだし、どのような言葉で読者に返すのか。

さらに、論理的には少し離れたところへ橋を架け、「どうしてこんなことまでわかるの?」という面白さを生み出す。

その設計には、今も人間理解と編集の力が必要です。

AIに心理テストを作らせるのではなく、自分のなかにある着想を、AIとの対話によって育てていく。

そのときAIは、答えを代わりに出す機械ではなく、自分ではまだ言葉にできていなかった構造を見つけるための、優れた共同制作者になります。

そして最後に、その構造を壊し、少し遠い場所へ跳び、もう一度納得できる形で着地させる。

そこから先が、人間の制作者の仕事です。

参考

※著作権侵害に当たるかどうかは、個別の作品や利用状況によって判断が異なります。本記事は、個別案件についての法的助言を行うものではありません。